吸血鬼に憧れる
吸血鬼に憧れる。彼女は僕にそう言った。
授業が終わった放課後、校舎の外に備えつけられているコンクリート剥き出しの階段で、ぼんやりグラウンドを眺めている時だった。もっとも、眺めているのは彼女だけで、僕は壁に背中をつけてしゃがみ込んでいるのだけど。ちょうど彼女の太ももが目の高さで、そっちに気を取られていただけに、余計突拍子もなく聞こえた。
太ももから視線を上げると、彼女はやたらたそがれた面持ちだった。横顔が、夕日に照らされていた。いつもは真っ黒い髪が、今は亜麻色に見える。彼女は今、どこを見ているんだろう。三階と同じ高さだから、結構遠くまで見えているはずだ。
「どうしてまた、吸血鬼なんか」
「だって、日の光に当たったら灰になるんだもの。それに、人の血を吸わなきゃ生きていけない。魅力的だわ」
「背徳的な感じがいいわけ?」
「バカね。そうじゃないの」
と、彼女は笑った。笑うといつも、片目を瞑る。それがウインクに見える。
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