吸血鬼に憧れる
次の瞬間、彼女がパッと立ち上がり、階段を猛然と下り始めた。イタズラを仕掛けた子供のような笑い声が、残像になる。
状況を飲み込むよりも先に体が動いた。彼女を追いかけて、ほとんどジャンプで僕も階段を下る。
「待たんか! まだタバコ持ってるなら出さんか!」
と、先生が怒鳴りながら追いかけてきて初めて、してやられたと思った。
そういえば、彼女はさっき下へ手を振っていたっけ。わざとらしいくらい、タバコを吸う真似をして。そして、僕は彼女のシガチョコを咥えた。よく確かめなかったら、それが先生にはどう映ることか。
階段を下りきったところで、彼女に追いつく。悠長にケースからシガチョコを一本取り出しながら走っている彼女に、言ってやった。
「さっきのことさ、ひとつ訂正するよ」
「なに?」
「吸血鬼が死んでも、人間は悲しまない。たぶん、せーせーすると思う」
「あはは。おっしゃるとおりで」
朗らかに頷いた彼女が、ウインクする。
それだけで、充分に魅力的だった。
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