an alley cat
猫ときどきくもり
「へぇ~そっか・・・あ、そういえば黒田って、俺が気に入ってる奴に雰囲気とか似ててびっくりした」



―「気に入ってる奴」



その言葉を聞いた時にチクンと痛んだ胸。



「・・・笹川朝実ちゃんの事?」



私は必死に笑おうと口の端を持ち上げた。




「笹川?いや、何でここで笹川?」


そう言ってくすくすと笑う冬真くん。



「違うの?」

「残念!笹川は別に気に入ってもないし、関係ねぇな~」



―朝実ちゃんじゃ、ない・・・?



「分かんねぇよな、たぶん」

「・・・・?」

「正解は、“クロ”でしたっ」



―「クロ」



「・・・って、知らねぇか、まぁ、猫なんだけど」



―「猫」



「最近見かけねぇけど、すっげ可愛くてさぁ!黒田にも今度見せてやる」


「・・・・」

「黒田ぁ?聞いてる?」



「ご、ごめん」

「まぁ、写メならあるぞ」


笑いながら携帯を開いて、私に見せてくれた一枚の写真。


真っ黒の猫と、冬真くんが映っている。




―それは、紛れもなく私、だった。



「こいつ、いっつも川原で待っててくれるんだ」



―あぁ・・・冬真くんは・・・。


「でも最近いねぇし・・・大丈夫かな」



「冬真くんは、その猫の事・・・“好き”?」

「ん?当たり前じゃん!すげー好き!」





「あ、ここ上がってったら花見場所!」


そう言って冬真くんは、急な坂をゆっくりと上っていく。


私は冬真くんの背中を、見つめながら歩いた。





「大丈夫かー?坂キツイもんなここ・・・」


冬真くんはだいぶ後ろを歩いていた私に気付くと、立ち止まって待ってくれた。





「頑張れ黒田ぁ!」



そう言って再び先を歩き出した冬真くん。



「ほら、あそこ、みんないるだろ?」




坂の上で、笑顔で指差している冬真くんは、なんだか少し子供っぽく見えた。




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