あの白に届くまで


「そうかもしんない」

「…」

「愛してるから、時々ひどく憎みたくなる」




拓巳はメロンソーダに再び口をつけてから、「なんてね」と小さく笑った。
少し自嘲気味の笑みだった。


拓巳が目を閉じる。
眼鏡のレンズ越しに長いまつげがちょっと揺れた。


「俺もね、きっと大地と似た気持ちなんだよ」



――愛してるから、
時々ひどく憎みたくなる。


あたしはその言葉をもう一度、自分の胸の中で繰り返した。

不思議と…すっと胸に入ってきた。



「俺たちは日向を好きだったし、日向にとっても俺たちはかけがえのない存在だと思ってたんだ」


拓巳と目が合った。
あたしは無言のまま、小さく頷いた。



伝えたいことがある。
…それでも今は、拓巳の言葉を受け止めたい。


< 105 / 172 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop