あの白に届くまで


不思議と今まで過去の夢は見たことがあっても、また再会する夢は見たことがなかった。


夢の中で俺はちゃんと"これは夢だ"とわかっていた。

日向先輩が、グラウンドを走っている夢だったからだ。




―――もう一度。

もう一度だけ、あの人が走る姿を見てみたい。


そんな願望の現れだったのかもしれない。




「…っ、た」


がつん…と、タクシーの窓の縁に軽く頭をぶつけて目が覚めた。

車内の独特の匂い。
酔わない体質とはいえ、一応目を閉じておく。


再びシートにもたれかかったとき、ドライバーが「ヒア」と短く言った。



腕時計を見るといつの間にか30分が過ぎていた。

大きな大学の前で車が静かに止まる。



「…サンキュー」


言いながら、窓の外からその校舎を眺めた。


日本とは比べものにならないぐらい広い。
まぁこの辺りは土地が広いっていうのもあるだろうけど。


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