あの白に届くまで
彼女はその言葉に、悪戯っぽい目と口調になった。
「そうかなぁ」
「多分」
「あたしに怒られるのが怖くて、帰ってきたとしても最初には会いに来てくれないかもね」
「帰ってきたらキックしますか?」
「うーん…」
アイスティーをかき混ぜる白い手が、
以前よりも細くなったように見えた。
じっと考えていたその顔が、
ふっと頬を弛めた。
「キックもしたいけど、チョップもしたいけど」
やりたいことはたくさんあるけど。
アイスティーのグラスについた水滴が、
ぽつっとテーブルに小さな染みを作った。
それはまるで、涙のように見えた。
どれほど長い時間を掛けて
その想いが育ったものなのか。
あまりに透明で綺麗な雫が落ちる。
「…とりあえず、校庭走らせるかな。あたしの気が済むまで」
顔を上げた。
柚先輩は静かに泣いていた。
俺が一度も目にしたことのない、とても綺麗な涙だった。
――――…日向先輩。
今何処にいますか?
誰を想っていますか?
随分長い月日が経つのに
1ミリも変わらないどころか
徐々に積もってく想いがあります。