あの白に届くまで


目の前で紡がれる彼女の言葉ひとつひとつを、聞き逃さないように受け止めるしかすべがなかった。



「そしたら彼は、ちょっと困った顔になって。
それから小さく笑って小指を立てて言ったの。



『そうかもしんない。…でも、それは谷村の心の中だけに秘めといて』って。あ、谷村っていうのはわたしの苗字なんだけどね。



でもすごく、すごく嬉しかった。わたししか知らない秘密が出来たこと。関わることもないだろうな、って思ってたから。ずっと」


カナさんはそっと目を閉じた。
本当に憧れてたこと、本当に好きだったこと。全部が自然と伝わってくる。



「今思えば恋愛感情じゃなくて、憧れだったのかもね。その人がどうしたって振り向いてくれないことはわかっていたし、無理に振り向かせようなんて考えたこともなかった」


でもね、とカナさんは優しい目を俺に向けた。

やっぱり柚先輩に似た、まなざしだった。



「今の彼氏は大好きだし今の人と結婚するつもりだけど、それでも彼は一生忘れられないし、忘れたくもない。素直に思い出と共に生きていこうと思ってるのよね。

初恋だったの。本当に」


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