あの白に届くまで
「会っていれば、カナさんみたいな人を忘れるわけないと思うんですけどね」
タクシーに乗り込むと、ドアがバタンと閉まった。
窓越しにカナさんが小さく手を振った。
そして口を動かした。
が ん ば っ て
げ ん き で ね 。
唇の動きで、そう読めた。
だから俺もゆっくりと口を動かして答えた。
――あ り が と う 。
ドライバーに駅名を告げると、すぐに走り出した。
そっとシートにもたれかかって、目を閉じて上着のポケットに手を入れる。
ゆっくりと深呼吸した時…指先に何かが当たった。
「…ん…?」
上着のポケットにいつの間にか入れられていた、小さく折り畳まれたメモ用紙。
カナさんが入れたものに違いなかった。
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大地くん
彼の連絡先です
0XX-YZXXX
彼の名前は…
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ちらりと目を遣ると、すぐに折り畳んだ。
ちょうどカバンの中で携帯が鳴ったから。
もちろん兄貴からの電話だった。
「あ、もしもし?」
「ちょ、大地!飛行機の時間間に合うのか?」
「間に合う間に合う。急ぐよ。任せて」