あの白に届くまで
出来ないこと、悲しいことに目を向けるんじゃなくて。
今の自分に出来ることだけを見つめて前を歩いてきた人。
"前を向いていようとする努力を続ける"…そんな人。
本当は、めちゃくちゃ会いたかった。
滞在を無理に延ばしてでも会えたら良かった。
数日前の俺なら、きっとそうしてた。
でも…
俺は俺の生き方があるように、
日向先輩には日向先輩の生き方がある。
―――どんなに好きでも憧れでも、やっぱり関係ないんだよな。
「…もしもし」
電話が鳴ったから、通話ボタンを押して耳に当てた。
ちょっとだけ懐かしい声が耳に飛び込んできた。
「だ、大地くん…?今雄大先輩と一緒にいて、携帯借りて電話してるんだけど…」
少し戸惑ったような声。
俺は微笑んで、「…柚先輩」と名前を呼んだ。
「そろそろ帰国の時間だよね?」
「そうです。空港に向かってます」
「それで、あの…」
「柚先輩」
先輩が聞きたいことはわかっていた。
全部、わかっていた。
一瞬心が宙を揺れたけれど、
すぐに決意していた。