あの白に届くまで


出来ないこと、悲しいことに目を向けるんじゃなくて。
今の自分に出来ることだけを見つめて前を歩いてきた人。

"前を向いていようとする努力を続ける"…そんな人。




本当は、めちゃくちゃ会いたかった。

滞在を無理に延ばしてでも会えたら良かった。
数日前の俺なら、きっとそうしてた。



でも…



俺は俺の生き方があるように、
日向先輩には日向先輩の生き方がある。


―――どんなに好きでも憧れでも、やっぱり関係ないんだよな。






「…もしもし」


電話が鳴ったから、通話ボタンを押して耳に当てた。
ちょっとだけ懐かしい声が耳に飛び込んできた。


「だ、大地くん…?今雄大先輩と一緒にいて、携帯借りて電話してるんだけど…」


少し戸惑ったような声。
俺は微笑んで、「…柚先輩」と名前を呼んだ。


「そろそろ帰国の時間だよね?」

「そうです。空港に向かってます」

「それで、あの…」

「柚先輩」



先輩が聞きたいことはわかっていた。
全部、わかっていた。



一瞬心が宙を揺れたけれど、
すぐに決意していた。



< 160 / 172 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop