あの白に届くまで
目を丸くして兄貴を見つめ返した。
「なんの冗談だよ、急に」
「お前1人で異国に行かせられるかよ。極度の方向音痴が」
「なっ…」
「同感だな」
箸を置いて反論しようとした俺に、畳みかけるように親父が口を挟んだ。
有無を言わせぬ目をしている。
「和也なら就活も終わってるし、ちょうど暇な時期だろう。同行してもらえ」
「ちょ、俺はあくまでも1人で…」
「アメリカは広い上に危険だ。1人で行くのは認めない」
そんなぁ…
肩を落とす俺に、母さんがお茶を差し出した。
そして窘めるような目を俺に向ける。
「そうよ大地。お兄ちゃんに着いてってもらいなさい」
「あーもう。…分かったよ」
こうなったら何を言っても仕方ない。
そう悟って、渋々承諾した。
よくよく考えたら、二週間も休む場合には休学届けが必要になる。
それには保護者の判が必要だから、結局のところ親父には逆らえないんだ。
「きゅ、休学ぅ!?」
――その夜、彩の高い声が電話越しに俺の耳をつんざいた。