君に届ける最後の手紙
「おばさん、俺ね、アサミが亡くなったあの日、一つだけ約束をしてたんだ」


「約束?」


「うん。アサミはね、ちゃんと自分の気持ちを話してくれてた。でも、俺はいつも逃げてばっかりで……」


「…………」


いつもなら、この先は恥ずかしくて言えないはず。


でも、良く晴れた昼下がりの温かい陽射しと、ゲンキの気遣いが、俺の背中を押す。


……今日言いたい。


……ここで言いたい。


「だからその日は、俺の気持ちをちゃんと話す約束してた。……俺ね、アサミの事好きだった。自分でも気付いてなかったけど、ずっとずっと前から好きだったんだ」


自分でも驚くくらいの、素直な気持ちでそれを話すと、おばさんは両手で顔を覆う。


「……そう。アサミ……良かったね……由ちゃんも同じ気持ちだったって!」


おばさんの眼からは、また大粒の涙が溢れた。


でもそれは悲しい涙じゃない。ようやく一つになれた、俺とアサミに向ける喜びの涙。


……アサミ、やっぱり永遠はあるよ。


俺達二人がいつか交わした"50年後の約束"は"永遠"に果たされる事はない。


俺の気持ちも、どうやったってお前の耳に届く事はないだろう。


でも、俺の気持ちだけは、お前のそばに置いといて欲しい。


「おばさん、アサミが持ってた黄色いミニタオル……どこにある?」


「……あぁ、いつも大切そうに持ってたから、私が持ってるわよ。コレでしょ?」


そう言ってタオルを俺に手渡す。


「サインペンあるかな?」


「……?」


父さん……俺に遺してくれたあの手紙、嬉しかったよ。


だから俺も、アサミのそばに、これを置いといて貰おうと思う。


……アサミ。たった三文字の短い言葉、叶わない想いだけど、これが今思う一番の願い。


いつまでも持っててくれよ。


涙が出たら、またコレで拭えばいい。


あの時は恥ずかしくて言えなかったけど、ちゃんと覚えているよ。




『――涙そのままにしてると痛くなるよ?』



『ありがとう!』



アサミ……



……"またな"。





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