キミのいる世界で
「王都ルシフェルから100キロほど離れた場所のはず……。アイラの町辺りかな。これだから移動魔法は嫌いだ」
私の隣で、独り言をぼそぼそと呟いている魔法使い。地下水路に居た時に移動魔法とやらを使わなかったのも、それが理由なのだろうか。
そもそも、アイラの町だなんて初めて聞いた。
自慢じゃないが、私は王都ルシフェルから出たことがない。今出来ることと言えば、色鮮やかな町並みを見つめることくらいだ。
多くの人が行き来する表通りで、黙って突っ立ったままの私達。
さすがに邪魔になるだろうと思い、それとなくフーリオを引っ張り、わき道へと逸れてみた。
「あぁ、暑いかい? 気温が高めだから、慣れないとバテるかもしれないな」
真っ黒のローブを羽織っている人の台詞じゃないと思いつつも、その言葉には思い切り同感。
日陰にいるというのに、ここまで暑いとは。
無駄とは分かっているけれど、手で扇ぐことを止めずにはいられなかった。
「それで、これからどうするんですか?」
何処か室内に入りたい。それが出来れば、どれだけ嬉しいか。そんな期待を僅かに込めた瞳で、フーリオをじっと見つめる。
それにしても、相変わらず顔の半分しか見えないフードをどうにか出来ないものか。それか、この暑さを何とか出来ないものか。
答えを待つ頭の中は、どうでもいいことで埋め尽くされていた。