キミのいる世界で

 親鳥の後を追う雛のように、彼のローブを見つめたまま足を動かすこと数分。

 なるべく人目につかない道を選んだのが幸いしたのか、何の問題もなく店に辿り着くことが出来た。

 こじんまりとしていながらも品のある店内は、この町で溶け込めそうな衣類が沢山置かれている。


「普段の自分なら選ばないような服を選んだ方がいい。どうせなら、別人と思われる方が楽だ」

 さっそく自分用のローブを選ぼうとしている彼は、口早にそう告げる。私はそれに対し、疑念を抱かずにはいられなかった。

 何で彼はローブを選ぶのか。いつもと変わらないだろう、と。


「フーリオは違うジャンルの服を選ばないんですか?」

 あくまでやんわりと。そう呟くと、彼は肩を瞬間的に震わせる。

 何かまずいことでも口走ってしまっただろうか。


「オ、オレは別に。だ、大丈夫だ」

 ここまで『大丈夫じゃない大丈夫』は初めて聞いた。何をそこまで拒む必要があるのだろう。

 好奇心という名の探究心に火がついてしまった私は、ずいっと身を乗り出した。


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