キミのいる世界で
思わず、左手を自分側に引き寄せる。するとそこには、痛々しく浮き出た不思議な文様。
触れてみようとした途端に、それは音もなく消えてしまう。
フーリオの左手へ視線をずらせば、いつの間にか脱ぎ捨てられた手袋が彼の右手に収まっていて、左手の甲には私と似た様な文様が刻み込まれていた。
「オレお手製のおまじない。これで何があってもエマを守れる」
まだ少しだけ痛い左手を、壊れ物を扱うかのように触れるフーリオは、心底嬉しそうな顔をする。
まるでそれは、大好きな玩具を手に入れた少年のようにも見えた。
そうしている間にも、これが何のおまじないなのかを聞きたくて、口を開こうとすると――
「さて! ご飯でも食べようか」
いきなり、何の前触れもなく手を鳴らす音が響く。発生した音、全てはフーリオのもの。
今までの重苦しい雰囲気は何処へやら。彼が両手を叩くと、部屋中が明るさを取り戻した気がした。
結局、上手く誤魔化されてしまったのか。私の疑問が解決されることはないようだ。
彼の黒魔術的な料理はテーブルに置かれたまま、私たちは部屋を後にした。