キミのいる世界で
「よっ! オレ様、置いてかれちゃって寂しかったぜ~」
何というタイミングの良さ。
ロビーに着いた瞬間、これだ。一番会ってはならない人に鉢合わせてしまい、顔がひきつってしまう。
もうこうなると、フーリオの顔を見れない。
時が止まってしまったかのように静まるロビー。場違いに鳴り響く、大きな古い柱時計。
心の中で、何度も、何度も、この時間が終わることを祈った。
「あり? フーちゃんったら、また無視? 無視なのか?」
おかしなあだ名で呼んだ上に、うざったいことこの上ない連続「無視?」攻撃。
きっと今の私は、血色が悪いというレベルじゃないくらいに顔面蒼白になっているはずだ。
気のせいか口の中が乾いてくる。息をする度に音がするのは、極度の緊張状態にあるからだろうか。
獲物を捕らえるような目をして、じっと黙ったままのフーリオが私の手から離れた時。物凄く悪い予感がした。
そして、それは当たった。
私から距離を取ったかと思えば、間髪入れずにルベルへと殴りにかかったフーリオ。それをギリギリで避けたルベルだったけれど、頬には赤い筋が一本走る。
「フーちゃん、やるやるぅ! 昔と威力は変わんねーなッ!」
人をおちょくったような口調のまま、ルベルから繰り出される攻撃はフーリオに負けじと凄まじい速さだ。
静けさの漂うはずだったロビーは、一気に大乱闘の場と化してしまう。止めようにも、あの場に入る勇気はない。
二人の様子を見続ける頭は、左右に世話しなく動く。
永遠に続くのではないかと思われた大乱闘。けれどそれは、意外な終末を迎える。
「そこまでです。お二人とも」
あの下品だったはずのお兄さんが。
口ひげを綺麗に整えているお兄さんが。
トレーとワインのボトルだけで、二人の動きを止めた。