キミのいる世界で
その夜。
酒場で話していた通り、フーリオ達は王宮に向かうことになった。
ホテルの出入り口で見送りをしようとしたのだが、そこで一つ疑問が浮かぶ。
「瞬間移動、みたいなのはしないの?」
この町に来る際、いきなり使われた魔法のことだ。あれを使ってしまえば、ルシフェルまで一瞬で着くはず。
私がそのことを問いかければ、フーリオ達は互いに顔を見合わせて苦笑い。
何かおかしなことでも言ってしまっただろうか。
「あれは条件が色々あるんだけど、まずは術者と同行者がぴったりと密着することが第一条件で」
「男同士だと気色悪いだろー? 密着するなら女の子を激しく希望するね、オレは」
静かに話すフーリオの言葉を遮るようにして、やけにテンションの高いルベルが割り込んでくる。
けれどまあ、大体の理由は分かった。というより、ほとんどの理由かな。
「あ、はは。まぁ、気をつけて」
乾いた笑いが混ざった声音のまま、見送りの儀式が始まる。
右手を優雅に振りつつ、口元には笑顔。それがたとえ苦笑いだとしても、大した違いはないだろう、たぶん。
『新婚生活攻略法』という雑誌を立ち読みした時に書いてあった『見送りの極意』というものの受け入りだけれど、本当にこれが極意と言えるのだろうか。
数え切れないほどの疑惑がふつふつと湧いてくるのを感じつつ、姿が見えなくなるまで手を振り続けてくれたフーリオを目に焼きつけ、儀式は終わりを迎えた。
「……エマ様、エマ様」
ぼんやりとした光に照らされたロビーで、奥のほうから底知れぬ力を持つお兄さんが出てくる。
自分の元へ呼び寄せるような素振りに従い、お兄さんの側まで近づく私。
そこで、最初の頃に見た下品な笑みが彼の顔に浮かんだ。
「女性一人で、とは寂しいでしょう。僭越ながら私がお側に」
「結構です」
底知れぬ力を持つお兄さんは、下品なお兄さんに格下げ決定。
適当にお兄さんをあしらった後。色々と出来事が多くて疲れた私は、足早に部屋へと向かい、ベッドに突っ伏すことに決めた。