キミのいる世界で
寝起きぼさぼさヘアーのまま、ロビーへ行くと。いつものお兄さんではなく、違うおじさんがいた。
ロマンスグレーの髪色が素敵なおじさまと言った方がいいだろうか。紳士を思わせる表情が大人の余裕を思わせる。
「おはようございます、エマ様。ご朝食の準備が出来ておりますので、二階のカフェへとお越しくださいませ」
やけに丁寧な口調で告げられ、呆気に取られたようにしながらもエレベーターへ足を伸ばす私。
こんな時、もっと教養が身についていたらと自分を卑下してしまう。
少し待ってから、豪勢なエレベーターに乗り込むと。随分広いことが分かった。
15人くらいは乗れるだろうか。あまり需要がない気もするけれど、まあ気にする必要もないか。
さほど時間もかけずに二階へ着き、真っ先に視界へ飛び込んでくるのは、上品な雰囲気を漂わせるカフェブース。
こんな格好で来るんじゃなかったと後悔しつつも、ガラス戸を開ければ、いつものお兄さんがいた。
あら、安心。
「おお、エマ様。ご朝食ですか。それではお席にご案内します」
演技のような立ち振る舞いをした後。お兄さんはカウンターからゆっくりと出てくる。
小さな声で「おはようございます」といえば、にこやかな笑顔を見せられた。
笑顔は素敵。笑顔は。