キミのいる世界で
「おっと! ごめんよ」
石畳に激突したお尻を擦りながら見上げれば、申し訳なさそうに苦笑いをしているおじさんが見えた。
先程とまったく逆の状況に、思わず笑みが零れる。
けれどいつまでも笑っているわけにもいかず、用件を聞いてみると。苦笑いで手渡された『日刊・ルシフェルタイムズ』
わざわざ手渡しじゃなくても良いのに、と思いながらもお礼を言えば
「今日の見出しは物騒だからね、ちゃんと読んでおくんだよ」と、念を押されてしまった。
倒れてしまっていた自転車を立て直し、さっそうと走り去っていくおじさんを見送りながら、新聞を開いてみると――
『フーリオ・クレイントン現る!』
そんな文字がでかでかと表記されていた。
フーリオ・クレイントンと言えば、フェリックス・クレイントンの息子……。
どうやら、王都ルシフェルでの目撃情報が多数あったらしい。
下に沢山書かれているのは、住民に注意を呼びかける文章。
世界を滅ぼした人の息子というからには、とてつもなく強いのだろう。
ぞくっと、鳥肌が立ったような気がした。