infinity
*
ときには散歩に出かける。
新緑が眩しい静かな公園。
誰もいない。
緑の世界。
二人きり。
きれいな二重の瞳。
木漏れ日を拾って乱反射する。
見つめられた私は眩しくて目を閉じる。
まぶたの裏に映像が浮かぶ。
夏の砂浜。高く青く広い空と、真っ白い入道雲。痛いほど強い太陽。
遠くでくりかえす潮騒。
死んだ珊瑚や貝殻が砕けるキラキラした音が聴こえる。
私のなかでひとつの旋律がうまれる。
おもわず書きとめようと伸ばした指先が、彼に触れる。
「違う、そうじゃないから放して」
私の指を握りとった彼に言う。
消えてしまう。
私は彼と忘却に抗ったがどちらにも負けてしまう。
太陽に輝く白い砂浜が霞んでいく。
キラキラした音が遠ざかる。
夏が終わる。
嗚呼。
美しかったのに。
未来永劫失われてしまった。
私の中の音楽。
「なにが違うの」
なにも知らない、もしくは知らないふりをして彼が訊くから、
私は握られたままの手で彼の胸を叩いた。
「オレに縋ったでしょ、はじめて咲ちゃんから」
「だから違うってば」
「なにが」
「……つかまえたかったのにもう消えちゃったよ。タクミのバカ」
「八つ当たり?かわいいね。けど妬けるよ」
「バーカ」
タクミが、私のうなじにかかる髪をやさしく梳く。
耳元で力強い鼓動が鼓膜を震わせる。
赤い液体が、彼の全身を駆け巡る。
細胞が呼吸をする。
発熱する。
生きている。
タクミを保とうとするホメオスターシスと、それに逆らうように奔放に生きるタクミ自身。
エロスとタナトス。
タクミの鼓動と絡むように、私の耳にまた別の旋律が響く。
原始的、深い緑、あたたかい土、漠然とした危機感、絶対的な愛。
忘れない。
忘れないように余計なことを考えない。
もう失わないように。
彼から生まれる音楽に満たされて、私は生きている。
もっと深く、もっと熱い音を聴きたい。
私はタクミの胸にますます頭を埋める。
あたたかい腕が私を包んでゆるゆると縛りつける。
そう、それでいい。
新緑が眩しい静かな公園。
誰もいない。
緑の世界。
二人きり。
きれいな二重の瞳。
木漏れ日を拾って乱反射する。
見つめられた私は眩しくて目を閉じる。
まぶたの裏に映像が浮かぶ。
夏の砂浜。高く青く広い空と、真っ白い入道雲。痛いほど強い太陽。
遠くでくりかえす潮騒。
死んだ珊瑚や貝殻が砕けるキラキラした音が聴こえる。
私のなかでひとつの旋律がうまれる。
おもわず書きとめようと伸ばした指先が、彼に触れる。
「違う、そうじゃないから放して」
私の指を握りとった彼に言う。
消えてしまう。
私は彼と忘却に抗ったがどちらにも負けてしまう。
太陽に輝く白い砂浜が霞んでいく。
キラキラした音が遠ざかる。
夏が終わる。
嗚呼。
美しかったのに。
未来永劫失われてしまった。
私の中の音楽。
「なにが違うの」
なにも知らない、もしくは知らないふりをして彼が訊くから、
私は握られたままの手で彼の胸を叩いた。
「オレに縋ったでしょ、はじめて咲ちゃんから」
「だから違うってば」
「なにが」
「……つかまえたかったのにもう消えちゃったよ。タクミのバカ」
「八つ当たり?かわいいね。けど妬けるよ」
「バーカ」
タクミが、私のうなじにかかる髪をやさしく梳く。
耳元で力強い鼓動が鼓膜を震わせる。
赤い液体が、彼の全身を駆け巡る。
細胞が呼吸をする。
発熱する。
生きている。
タクミを保とうとするホメオスターシスと、それに逆らうように奔放に生きるタクミ自身。
エロスとタナトス。
タクミの鼓動と絡むように、私の耳にまた別の旋律が響く。
原始的、深い緑、あたたかい土、漠然とした危機感、絶対的な愛。
忘れない。
忘れないように余計なことを考えない。
もう失わないように。
彼から生まれる音楽に満たされて、私は生きている。
もっと深く、もっと熱い音を聴きたい。
私はタクミの胸にますます頭を埋める。
あたたかい腕が私を包んでゆるゆると縛りつける。
そう、それでいい。