infinity
彼の戦慄が、私の中でまた音楽に変わる。
黒い不安。深い闇の深淵。
揺れる。
揺れる。
私はタクミの首にますますしがみつく。
「私の音はタクミのものだから。タクミのなかに最初からある音楽だから。私がいなくてもタクミは歌える」
「違うよ咲ちゃん」
「違わない」
「咲ちゃん」
プツ、と私の中で音楽が途切れた。
タクミが私を引き剥がし、同じ目線になるように膝を折り、私を覗き込む。
真摯な色をした目が私をじっと見つめる。
つよい。太陽のような絶対的な。
信じてるんだ。タクミはなにかをつよく信じている。
「オレはオレを知らない。オレの中の音楽を知らない。咲ちゃんがいなきゃわからない。咲ちゃんがオレの音楽をこの世に生むんだよ。それに」
タクミは言いかけて笑み、私のまなじりにひとつ音をたててキスをした。
花が咲く。
春がくる。
嬉しくなる。
小鳥が囀る。
私の中の旋律に乗せるように、タクミが言った。
「オレのなかの音楽は咲ちゃんの音楽だよ。咲ちゃんがいなきゃ生まれない。オレと咲ちゃんのものだよ」
「私とタクミの?」
「二人の音楽だよ。オレひとりじゃ歌えない、だから」
そばにいて、と耳元でタクミが囁く。
いいよ、そばにいるよ。
タクミの中に音楽が棲み続ける限り、私はタクミに生かされて、私がタクミを生かす。
私はタクミから生まれる音楽を愛しているんだから。




木漏れ日が満ちる午後の公園、緑陰で交わす約束。

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