トレードな同居人




ジャー…―

洗面台に付いた水道から水が流れる音だけが響く。

血を洗い流しながらたまに傷口の周りを優しく擦ったりしてる透の表情は髪に隠れて見えない。




「素手でなんか掴むからだろうが…馬鹿かお前。」


「………」


「女なんだから傷なんか作るなよ。」




元カノとも友達とも思ってないって言ったくせに…

優しくされればまた勘違いしてしまう。
嫌いだ、って思ってもあれだけ好きだった人…本当に嫌いになんかなれないんだよ。




「なんで…優しくなんかするのよ…」


「別に……優しくなんかしてねぇよ。」




レバーを下ろしてタオルで手を拭いてくれながらそんな事を言ったって説得力なんてない。

ちぐはぐな透の言動に思わず笑みがこぼれてしまった。




「何笑ってんだよ。」


「別に?ただ…やっぱり変わらないものもあるんだなって思っただけよ。」


「………お前は変わったな。」


「……はい?」


「女らしくなった。」




タオルで手の平を覆いながら今度は優しく手を引いてまたリビングに戻って来る。



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