トレードな同居人




透が出かけて1時間、手を動かすなと言われてもそれは無理な話だった。

ご飯を作るにしても、掃除をするにしても手を使わなきゃ何もできない。
それが利き手なら尚更だ。




「い…っ、」




掃除機をかけるのに手に力を入れればじんわりとにじむ血に傷口が開いたんだと他人事のように考えた。

左手をかばいながらガーガーと音を立てながら掃除機をかけていると真後ろから伸びる影。




「手動かすなって言わなかったか?」


「ひ…っ………び、っくりした…」


「傷口開いてんじゃねぇかよ…馬鹿だろお前。」




ヌッと伸びてきた手にドクドクと心臓がありえない早さで動いてへたりそうになる膝を奮い立たせて透を見上げた。




「怪我人がこんな事する必要ねぇんだよ。」


「……なんでいるのよ。あんた帰って来ないって言ってたじゃん」


「別に良いだろ。俺の勝手だ。」




掃除機を取り上げられてソファーに座らされた。

なんて言うか…過保護なのか。




「……誰か待たせてたんじゃないの?」


「女の一人や二人、別に構わねぇよ。それより手見せろ」


「良い。」


「良くねぇよ、早く見せろ。」


「だから良いって!」


「良くねぇ!」




不毛な言い争いな気がするけど、それでもここで引くのはなんとなく負けた気がして嫌だった。



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