トレードな同居人
4話 歩幅=距離
不意打ちでキスされて、透は何食わぬ顔で私の包帯を取り替えている。
――…私だけドキドキして……馬鹿みたい。
なんて、そう思った自分に驚いてしまった。
「そう言や…お前学校は?」
「午後から。」
「ふーん。」
「あ…あんたは……仕事は?」
「休み。」
それっきり会話すらなくて時計の秒針が動く音だけが響いた室内は居心地が悪かった。
透とは会話の種すらないから余計に居心地が悪い。
「………なぁ、」
「………何よ。」
「実家の事、………やっぱなんでもねぇわ。」
透が聞きたい事はなんとなくわかってしまった。
私が昨日言った事を聞きたいんだってわかってしまう。
それでも、今は言うつもりもないし、言いたくない。
「飯、食いに行くか。」
「良い、あんただけで行きなよ。」
「仮にも同居人を飢え死にさすつもりなんてねぇんだよ。
さっさと着替えて来い。」
ぶっきらぼうに言って部屋に戻った透に、しばらく呆気に取られながらも少し…ほんの少しだけ喜んでる自分がいる事には気付かないふりをしたかった。