トレードな同居人





しばらくの間、外を眺めていれば小夜さんがパスタを運んできた。

彩りが綺麗で食欲をそそる香りのそれを私と透の前に置いて、箸を置いていく。




「小夜さん、フォークもらえます?」


「え?透くんいつも箸で食べてなかったかしら。」


「俺じゃなくてこいつ。利き手使えねぇから。」




こんなところでも小さな気遣いを見せる透に思わずキュンとしてしまった。

小夜さんは私の左手に巻かれた包帯で納得したのかすぐにフォークを持ってきてくれた。




「ありがとうございます。」


「いいえ〜、ごゆっくり。」




営業スマイルなのか、それとも素の笑顔なのかはわからないけど、いい笑顔でそそくさとまたカウンターの奥に消えた小夜さんを見送ってから透に視線を向けた。




「―――…ありがと。」


「別に。それより早く食え。」


「うん、いただきます。」




昨日は絶対にうまくいかないと思っていた同居も案外うまくいくかもしれない、

そんな幻想を抱いてしまった私は本当に救いようのない馬鹿なのかもしれない。



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