「影」三部作
 耳が張り裂けるような轟音が響く。僕は愛姫を押さえ付けるように無理矢理床に伏せさせた。皆が悲鳴を上げて伏せる中、柚姫だけは立っていて悠然と微笑んでいた。
 ぐらりと、視界が揺れる。かと思うと、柚姫が窓を突き破って飛び出して――。
「柚姫ぃ!」
 愛姫が柚姫を追いかけようと立ち上がる。けれど僕は愛姫を押さえ込んで。
「柚姫柚姫柚姫!」
「愛姫!」
 愛姫がどんなに必死にもがいても、男である僕の力には敵わない。やがて諦めたのか、大人しく泣き始める。
 それと同時だろう。僕たちは宙に浮かんでいた。比喩ではない。本当に浮かんでいた。
 柚姫が飛び出した窓から、池が見える。
 そうか。学校が倒れているんだ。
 僕は愛姫を抱きしめた。このまま地面に衝突しても、これなら愛姫が生き残る可能性が少しはあるかもしれない。
 愛姫が泣いている。き、としか聞き取れない。柚姫、と言っているのは明白で。僕は少し悔しい気持ちでいた。
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