「影」三部作
「私、レンがずっと好きだった。」
 意外な事実。でも、僕は柚姫が――。僕は柚姫が、何なんだ。
「柚姫も好きだったから、ずっと黙っていようって思ってたけど。」
 おかしい。だって、おかしい。僕は柚姫が好きだったのに。なのに、嬉しくないなんて。
 僕の頭は混乱してしまった。これ以上飲み込めそうにない。なのに、愛姫は言葉を続ける。
「死んだら最後だって思って、私、好きって言ってたんだよ?気付いてた?」
 ああ。あれは柚姫、ではなく、好き、と言っていたのか。どうしてだろう。心が温かい。
 僕は派手な愛姫より、質素な柚姫の方が好きだったはずなのに。
「愛姫。」
 愛姫。多分、僕は。
「愛姫が好きだったんだ。」
「柚姫じゃ、ないの――?」
 大きな目が涙で潤んでいる。僕はそれを指で拭いながら頷いた。
「本当だよ。」
 僕と愛姫は抱き合った。と言うより、愛姫が抱き着いてきた、のほうが正しいかもしれない。でも、僕も愛姫を抱きしめたかったから。
 どうしてこんなに幸せなんだろう。でも、僕は感じるんだ。柚姫の代わりなんかじゃない、と。
「レン――。」
 愛姫の僕を呼ぶ声が切ない。
 だけど、僕は見てしまった。愛姫の影が、じっとこちらを見て、睨んでいた。
 柚姫だ。僕は固まると同時に直感する。柚姫が僕を睨んでいる。
「レン?」
 不思議そうに愛姫が僕を見ている。でも、僕は大丈夫、と言えなくて。
「柚姫が見ている。」
 と言ってしまった。
 慌てると思ったのに、愛姫は僕に向かって微笑む。
「うん。」
 愛姫は影が柚姫だって、知っているんだろうか。でも、二人は双子で。
「柚姫もきっと、わかってくれるよ。」
「そう――、かな?」
「うん。きっと。」
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