「影」三部作
柚姫は、じっと窓の外を見詰めていた。其処には人気の無い草木の覆い茂った中庭がある。池もあるのだが、今はもう鯉を飼っていない。
僕が呼ぶと、柚姫は僕の方を向いた。澄んだその瞳に僕の心は高鳴る。
そして、
「うん。」
と言って柚姫は立ち上がった。
鞄を持つと、ちりん、と云う僕が柚姫の誕生日にあげた金と銀の鈴のストラップが鳴った。
「駅までで良い?」
「家まで送ってぇ。」
愛姫の全体重が、僕の左腕に掛かる。残念ながら僕の腕は逞しいとは言えない。だから、折れてしまうかと一瞬思った。
柚姫は愛姫の隣りに並ぶ。少し残念だった。
僕と二人が出会ったのは中二の夏だった。中学に入った時から可愛い双子がいる、とは聞いていた。でも見に行かなかったのは興味が無かったから。
でも。あの夏。夏祭りで、仲間と逸れて出会った二人の女の子。その時から僕は柚姫に恋していたんだ。
それから、中三でクラス替えがあってからずっと一緒だ。高校に入って二年感、ずっと一緒。三人で。
「レン、今年の誕生日は何してほしい?」
上目遣いに愛姫が聞いてくる。でも、その質問は少し困る。僕は自己表現が苦
手な人間なのだ。
「今年も柚姫と一緒にお金出し合おうって決めたんだ!」
「・・・。」
去年は酷かった。有名ブランドの腕時計。僕は返そうとしたけど、それは許されなかった。だからそれは今も僕の机の引き出しで、箱のまま眠っている。
「何でも良いんだ。高級じゃなければ。」
僕は最後の一文に力を込めた。だって。またあんな物を贈られたら困る。
「柚姫は何が良いと思う?」
愛姫は柚姫の腕で突いた。それに従って僕も柚姫の方へ引っ張られる。
空には、大きな雲があった。見上げた顔から首へ汗が伝う。
「本は?」
「良いね。」
「何が良いの?」
愛姫が僕の腕を三回引っ張る。そろそろ離してくれないと血が通らなくなるんじゃないだろうか。
「芥川龍之介。」
「分かった。」
風が吹いている。その風は僕達の足元を通って、柚姫と愛姫のスカートを靡かせていた。
ふと、風に運ばれて、愛姫の香水の匂いが漂う。ローズヒップの香りは、濃い。
「決まって良かったね。」
僕が呼ぶと、柚姫は僕の方を向いた。澄んだその瞳に僕の心は高鳴る。
そして、
「うん。」
と言って柚姫は立ち上がった。
鞄を持つと、ちりん、と云う僕が柚姫の誕生日にあげた金と銀の鈴のストラップが鳴った。
「駅までで良い?」
「家まで送ってぇ。」
愛姫の全体重が、僕の左腕に掛かる。残念ながら僕の腕は逞しいとは言えない。だから、折れてしまうかと一瞬思った。
柚姫は愛姫の隣りに並ぶ。少し残念だった。
僕と二人が出会ったのは中二の夏だった。中学に入った時から可愛い双子がいる、とは聞いていた。でも見に行かなかったのは興味が無かったから。
でも。あの夏。夏祭りで、仲間と逸れて出会った二人の女の子。その時から僕は柚姫に恋していたんだ。
それから、中三でクラス替えがあってからずっと一緒だ。高校に入って二年感、ずっと一緒。三人で。
「レン、今年の誕生日は何してほしい?」
上目遣いに愛姫が聞いてくる。でも、その質問は少し困る。僕は自己表現が苦
手な人間なのだ。
「今年も柚姫と一緒にお金出し合おうって決めたんだ!」
「・・・。」
去年は酷かった。有名ブランドの腕時計。僕は返そうとしたけど、それは許されなかった。だからそれは今も僕の机の引き出しで、箱のまま眠っている。
「何でも良いんだ。高級じゃなければ。」
僕は最後の一文に力を込めた。だって。またあんな物を贈られたら困る。
「柚姫は何が良いと思う?」
愛姫は柚姫の腕で突いた。それに従って僕も柚姫の方へ引っ張られる。
空には、大きな雲があった。見上げた顔から首へ汗が伝う。
「本は?」
「良いね。」
「何が良いの?」
愛姫が僕の腕を三回引っ張る。そろそろ離してくれないと血が通らなくなるんじゃないだろうか。
「芥川龍之介。」
「分かった。」
風が吹いている。その風は僕達の足元を通って、柚姫と愛姫のスカートを靡かせていた。
ふと、風に運ばれて、愛姫の香水の匂いが漂う。ローズヒップの香りは、濃い。
「決まって良かったね。」