Iの漂流戦士






暫く経って正義とペアを組んでいた倉木が二人を発見した



『倉木さん…あの……』


隼人を庇いながら正義が声を出すと、倉木はそっと隼人の肩に手を置いた



『とりあえず明るい場所に移動しよう』


ニコリと笑みを見せた倉木に正義は少し違和感を感じた

いつもの倉木ならば真っ先にこう言うだろう



“家は?家族は?学校は?”


この3つの単語を欠かす事がないのに、なぜだか倉木の態度は他の未成年に接する時よりも優しく感じた


街灯が多く立ち並ぶ路上に出た正義達は一旦足を止める


衰弱(すいじゃく)しきっている隼人を座らせ、正義はコソッと倉木に耳打ちをした



『大丈夫ですかね…?やっぱり警察か病院に連れてくべきですか?』


どこにも連絡しないでと言われたけど、このままという訳にはいかない


正義が顔を曇らせている中、倉木の返答は意外なものだった



『やめとけ』


倉木はそう言うと、ポケットからタバコを取り出し口に加えた

チッチッとライターに火を灯し、タバコの先端を赤色に染める


暗闇の中でポツンと浮かび上がった赤い炎を正義は黙って見つめていた



『……星野、世の中にはな、警察に行っても病院に行っても解決しない事があるんだよ』


正義は何も言わず、倉木の次の言葉を待った



『漂流してる奴らが求めてるのは話しを聞いてくれる人。いいか?お前から聞くんじゃない。相手が話してくれるのを待つんだ』





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