Iの漂流戦士
ナノハは自分が殺人鬼になった日の事を思い出していた
過去の事を思い出すのは久しぶりだった
『…ねぇ、先生ってやり残しってある?』
修が言っていた言葉
ナノハはもう一度、言葉の意味を考えていた
正義は突然の質問に少し戸惑ってしまった
でも深く考えず、思いついたものを挙げていった
『やり残し?いっぱいあるよ。まだ終わってない資料の整理とか、まだ洗ってない朝の食器とか』
正義の返答にナノハはクスクスと笑っていた
『後はね……ってこれってやり残しじゃなくて、やりっ放しかな?』
ナノハは再びクスクスと笑いだし、一瞬でその場が和んだ
正義もその姿を見て、自然に笑みが溢れていた
そしてナノハはゆっくりと目線をパンジーの芽に戻し、口を開いた
『……私もね、やり残しがあるの』
いつもとは違うナノハの顔、その顔は寂しさで溢れていた
その時正義は思った
やっぱりナノハにも誰にも言えない傷があるんだと
“お前から聞くんじゃない、話してくれるのを待つんだ”
正義は倉木から耳がタコになる程言われ続けていた
待ち続ければナノハはいつか話してくれるだろうか?
自らの心へ正義を踏み込ませてくれるだろうか?
正義は考えた
もし逆の立場だったらどうだろうか、と
答えはすぐに出た
自分だったら言わないだろう