Iの漂流戦士
┗悲劇、開幕
【同時刻 オフィスビル26階 屋上】
『ちょうちょう、ちょうちょう菜の花に止まれ』
オレンジ色の空を眺めながらゆっくりとした音程で少女は歌う
『菜の花があいたら桜にとまれ』
少女は高層ビルの屋上に居た
26階建てのビルは空に近く、吹き抜ける風も強い
生暖かい風が金色に輝く少女の髪を揺らしていた
少女は一歩、また一歩と前に進み屋上の手すりを跨(また)いだ
後一歩でも前に出たら落ちてしまうギリギリのライン
下を見れば道路を行き交う車や人がちっぽけに見える程の高さで、
普通ならば足がすくんでしまう
その間にも強い風は少女の体を通りすぎてゆく
紺色のセーラー服と胸元にしている赤いスカーフが大きく揺れた
少女は両手を広げ、今にも飛び降りそうな雰囲気
『結局、菜の花は桜には勝てないんだね』
そう言うと少女の体がゆっくりと前に傾いた
-----と、その時
『おい。パンツ見えてるぞ』
突然後ろで声が聞こえた
少女の体はピタリと止まり、元の位置に戻る