Iの漂流戦士
こんな倉木の表情を見たのは初めてだ
きっと今でも、全てを話す事に迷いがあるのかもしれない
そのぐらい倉木にとって一年前起きた出来事は大きなもので、
簡単には口に出来ない事だった
だからこそ、星野正義という人間に話さなければいけない
そうする事で倉木自身も前に進む事になるから
『………倉木さんが言ったんですよ』
そんな中、正義がポツリと呟いた
『…………?』
人の波に逆らうように、倉木の足が止まる
道路を走る車の音や行き交う人々の声
そんな雑音にかき消されないように、正義は声を張った
『自分から聞くんじゃない。相手が話してくれるのを待つんだって、倉木さんが俺に教えてくれたんじゃないですか』
時間に追われる日々の中で忘れていた事
倉木は改めて、正義という人間に出会えて良かったと思った
その瞬間、心が少し軽くなって
どこからか吹いてきた風に背中を押された気がした
『星野、一年前の出来事を全部お前に話すよ。聞いてくれるか?』
もう鼓動は早く動かない
正義は倉木の目を見つめ、力強く答えた
『--------------はい』