Iの漂流戦士
【オフィスビル26階 屋上】
こうやって街を見続けたのは初めてかもしれない
修は今も手すりの向こう側に座り、何かを考えていた
『風が気持ちいいね』
気が付くと屋上にはナノハが居た
ヒラヒラとスカートが揺れ、金色の髪が風になびいている
この屋上で修と過ごしてきた時間は長いようで短い
ナノハは修の背中を切なそうに見た後、再び問いかけた
『ねぇ、修』
『んー?』
返事は軽かったけど、それは背中越しの返事
修はナノハの問いかけにすら、振り向こうとしない
でもそれで良かった
修の悲しい顔、切ない顔はもう見たくない
ナノハにとって修はとても大切な人で
何を言っても笑い飛ばすぐらい、強い存在で居て欲しい
『私ね、もう決めたの』
“何を?”
そんな言葉は返ってこなかった
でも、一瞬
ほんの一瞬、修の体が震えたように見えた
『あの場所にもう一度行ってくる。今度は逃げずにちゃんと向き合ってくるから』
修は慌てて振り向いたが、そこにはもうナノハは居なかった
“向き合ってくるから”
そう言った顔はどんな顔をしていたのだろうか
一度もナノハの顔を見なかった修には分からない
----------あの場所、
修もあれから一度も行っていない
辛くて苦しかったそれぞれの場所
『今度は逃げずに……』
うわごとのように修は何度もその言葉を繰り返していた
それは一年前のあの日-------------。