Iの漂流戦士
“なんで?”
修は思わず言ってしまいそうになったけど、ゴクンとその言葉を飲み込んだ
だって何て言えばいい?
父親はずっと無職で女の人に貢いでもらってるって?
それでその女の人が家に居着いて、今日犯されそうになったって?
そんな事言える訳ない
恥ずかしくて、言える訳がない
『……鍵を…家の鍵を忘れちゃって。でも父さんは夜勤で家に居ないから、家に帰っても中に入れない』
絶対に言えない
そう思ったら修は自分でも驚くほど、ベラベラと嘘が出た
そしてもう一つ驚いた事
それはずっと口にしていなかった“父さん”と言う言葉が出てきた事
何年も前から呼んだ事なんてなかったのに、嘘の中に平然と出てきた
なんとなくそれがとても気持ち悪くて、
嘘の為なら、なんでも偽れる自分自身に寒気がした
『そうか、じゃぁ今日は俺の家に来いよ。後でちゃんと親父さんに説明するんだぞ』
倉木は修の言葉を疑わなかった
それにホッとした反面、窓越しに見えた倉木の顔に修は罪悪感を感じた
きっとこの頃からだ
修の中で本当の事を言うより、言わない方が楽だと思うようになったのは
これから起こるであろう数々の事を
倉木も修もまだ知らない