Iの漂流戦士
『利用してたのは俺も一緒ですから』
あの本を世に出す事で自分も特別な存在になりたかった。部外者だけにはなりたくない
殺人鬼、戦士、この繋がりを保つために高木功はあの本を書いたのだ
『でもだからって本人の許可なくバラす事はしないだろ?出版社と上手くいってないのか?』
『……………』
高木功が出版社に電話をしたのはあの日だった。睦八代公園で正義と別れた帰り道
“3人は君の寂しさを埋める為にここに居るんじゃない”
そう正義に言われ、深く深く考えた
“……功は誰かの為に何かをしたり、我慢したりした事ある?”
ナノハの言葉
“もう終わりにしたいんですよ。あの日々を”
一馬の言葉
確かに高木功の一番は兄である修でも好きな人のナノハでもない。いつも中心は自分自身だった
-------でも、でも。
『こんな俺でもやれる事はあるんじゃないかって思ったんですけどね』
本当はあの日出版社に本の販売中止を言う為に電話をした。今店頭に並ぶ本を最後に絶版にしてくれと
続編も書いてくれと言われていたけど、その話も全てなしにして欲しいと
あの本は修達との繋がり。それを絶ちきれば兄を自由にしてあげれるのではないかと思った
それなのにこれが原因でまた苦しませてしまった
結果、本も発売中止になる事はなく逆に売上は上昇。空回りもいいところだ
『結局俺は昔も今も兄さんに何もしてあげられない。距離が遠退いていくのも当然ですよね』
電話口で高木功が小さな声で呟いた。みんなのように上手くいかない
自分以外の人間は全員キラキラして見えるのに
『お前もまだ修と腹わって話せてないんだよ。後悔したくねーなら話してこい。兄と弟なんだからよ』
『………あなたに言われたくないですけどね』
高木功はそう言って電話を切った。憎まれ口を言ったはずなのに、その口は僅かに笑っているようにも見えた