Iの漂流戦士
【オフィスビル26階 屋上】
一馬が居なくなってからこの場所は少し広くなった。片隅でパソコンを触る姿も大人びた敬語ももう聞けない
『参るよな。分かっていたけどこんなに寂しいなんて』
修が珍しく思っている事を口にした。ナノハもその横で少し遠い目をしている
『うん。でも一馬は笑ってた。自分で決めた事だから』
そんなナノハを修は何か言いたげに見つめている
『強くなったな、お前』
はじめて会った時はいつもうつ向いていて、子供のように腕に掴まってた。正直、一馬が居なくなって声を出して泣くと思っていたのに
『…………寂しいよ。寂しいけど何故か暖かいの、ここが』
ナノハは自分の胸に手を当てて目を瞑る
『私ね、生きていた時に人に依存して失敗したから絶対同じ事は繰り返さないって思ってた。だけどそうじゃなくて私は見返りを求め過ぎてたって気付いたの』
どうしてこんなに思っているのに応えてくれない。どうしてこんなに大切なのに同じじゃないの?
どうして、どうしてを何度も繰り返した
見返りを求めない無償の愛。今なら分かる気がする
『やっぱり強くなったよ。お前も自分で決めた事あるんだろ?』
凛々しくなったナノハの背中をそっと修は押した
『行ってこいよ。俺はどっちにしたってナノハを見送らなきゃ始まらねーから』
多分それが自分の役目。手を差しのべてこの道に導いたのなら終わりを見届けるのもこの手
それが終わったらやっと自分と向きあう時が訪れる
『俺はここに居るから。行ってこいナノハ』
ナノハは何度も何度も頷いて屋上の扉を開けた
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