ココア
私たちが生まれ育った街は、小さな港町。
懐かしい潮の匂いは、今日は私を苦しくさせる。
西原くんは、ヘルメットを脱ぐと、んーっと伸びをした。
そして、まだバイクから降りない私にそっと手を貸してくれた。
そこは小さな公園で、奥はすぐ目の前が海になっている、いわゆる海浜公園。
海の見える場所まで彼に促され歩く。
奥の木々を抜けて、海の近くに来て一層潮の匂いが強くなる。
「んー、今日はいい天気だけど、ちょっと寒いな。やっぱ、この街は風が強いな」
西原くんは、海を見られるベンチに座って、眩しそうに目を細める。
その隣に座って、私も同じ方向を見る。
「どうして、ここに連れてきてくれたの?」
「必要だと思ったから、かなあ」
頭の後ろで手を組んで、西原くんは、のんきにそう答えた。