ココア



当時のことが私の胸の中に蘇ってくる。


掻き消そうとしても、決してそれが出来ない苦しい記憶。



「左半身にね、麻痺が残ったの。お父さんはなかなか……その…障害を受け入れることが出来なかったんだ」



「うん」



「それもそうだよね。今まで当たり前に出来ていたことが、自分で出来なくなっちゃったんだもん。ご飯を食べることも着替えることも…、トイレも」



「うん」



お父さんの苦しそうな表情が、脳裏に焼き付いて離れない。



「あの時の家の中は、もう…めちゃくちゃだったな」



また、ホロリと涙が溢れる。



「ご…、ごめ、ん。ははは、なんかちっとも上手く話せないね」



「そんなの気にしないよ。お前の話、全部聞くって言っただろ」


キッパリとそう言ってくれた西原くんが、私の【救い】そのものだった。






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