ココア



彼の言葉に、胸の奥の感情がゆらりと揺れる。



西原くんにそんなこと言われたのは初めてだ。


懐かしい彼の声を聞いただけで泣きそうだったのに、更に熱い感情が溢れそうになる。



「なんか、倉野のノーテンキな声聞いたら、力抜けたわ」


冗談で笑い飛ばすような感じで軽く言う西原くん。


それでも。

例え冗談だとしても。

スゴく、スゴく嬉しかった。

大袈裟なんかじゃなく、泣きたくなるほどに。



「お前の声聞けて良かったよ。とりあえず、帰ったらまた連絡するわ」

「あ…、あ、き、気をつけて、ね。
ていうか、ほんとにほんとに無事で帰ってきてね」

「ありがとう、倉野。じゃ、またな」



電話を切った後も、しばらくケータイを握りしめたまま離せないでいた。


“ありがとう、倉野”


彼の低く優しい声が、胸の中に響く。


突然の西原くんからの電話。



ずっと前に諦めてしまっていた小さな小さな片想い。


その小さな恋はまた、動き始めるのだろうか‥‥‥。





< 12 / 247 >

この作品をシェア

pagetop