ココア
帰りは私のアパートの前まで送ってくれた。
バイクに跨る西原くんの後ろで、彼の温度を感じられる幸せを噛みしめていたことは内緒だった。
「今日はありがとう」
「気にすんな、友達なんだから当たり前だろ」
「─ありがと」
その台詞を今度は私に言わせて欲しい。
「少しは楽になった?」
「うん。また、飲みに行こうね」
「おう。じゃあ、またな」
そう言うと、西原くんは片手を上げ、帰っていった。
私はたぶん、イヤ絶対この日を忘れない。
今まで、そしてこれからも、西原くんは誰かのためにバイクを走らせるだろうけど。
でも─。
今日は私のためだけに、バイクを走らせてくれた。
その温かい事実を私は絶対忘れない。