ココア
「へー、西原から電話なんて珍しいね」
そう言うと恵美は、ゴクリと一口ビールを飲んだ。
狭くて和風レトロなこの居酒屋は、私と恵美のお気に入りの店だった。
恵美は高校の同級生で、そして大切な親友。
私の西原くんへの想いも全て打ち明けている。
「私も余りに突然で、軽くテンパっちゃったよ」
「あー、テンパってる麻梨(まり)、想像できるわ~」
そう言って笑う。
「でもさ、なんでネパールなんだろうね。一人なのかな?」
「詳しくは聞けなかったけど、多分一人なんじゃないかな」
「で、人恋しくなって麻梨に電話してきたわけだ」
「んん、その辺は謎」
そう。
西原くんが私に電話をかけてきた、その行為は謎だ。
私と西原くんは、特別親しかった訳じゃない─と思う。
西原くんにとって、たくさんいる仲間のウチの一人、て感じだ。
それが、突然…。
考えても、やっぱり分からなかった。