ココア
もし、このタイミングを陽子さんが合わせてくれてるのなら─
いや、ダメ。
亡くなった人に、運命を背負わせるのは、いけない…よ。
「あっ…!」
手に持っていた傘を落とし、拾おうとして、自分の足でさらに傘を遠くに蹴飛ばしてしまった。
「あ、あ~」
人並みを縫って傘を追いかける私の後ろを、笑いながら付いてくる。
「何やってんだよ、バッカだなあ」
西原くんの方を振り向いた時に、また、あの感覚が私を覆う。
子供のような笑顔の西原くんと向かい合っていて─
時間が私たちのまわりだけ、特別に緩やかに流れてるような、そんな感覚。
こんなにも大勢の人波の中に埋もれているのに、まるで二人きりでいるような感覚。
そう、それは─。