ココア
「怖…かった」
「─え?」
「西原くんがいなくなっちゃうんじゃないか、…って怖かった」
そう。
私が焦っていた理由はきっと、彼がいなくなってしまうんじゃないかという“恐怖感”
あの話を聞いてから、ずっと感じていた。
いなくなっちゃうんじゃないか
消えちゃうんじゃないか
そんな、儚さを西原くんからずっと感じていた。
「…ごめん」
そう言うと、私を包んでいた両腕をそっと離した。
「とにかく家、行こう。風邪ひいちゃうよ」
私たちは傘を差して歩いた、二人、何も喋らずに。
正確には、喋れなかったのだけど。
雨音だけが、深夜の街に響く。
「今更、傘差しても意味ない気もするんだけどね。俺、ビッチョビチョだし」
西原くんは、おどけるように言ったけれど、何も返せなかった。