ココア
この小さな部屋に、彼が溜めていた苦しい気持ちが溢れていく。
「好きなのに、すごく好きだったのに…。
過去形にしなきゃいけないのが、死ぬほど辛いくらいに。
怖かったんだ、目の前でジワジワと陽子を奪われていくのが。
─だから、逃げ出した。
いろんな後悔とか苦しみとか、、、
疲れたんだ。
もう、疲れたんだよ」
まくし立てるように一気に喋りきると、すっかり冷めてしまったココアを口にした。
「……甘っ…。倉野、これ甘いよ」
「砂糖、いっぱい入れたんだもん」
「ココアには砂糖入れないだろ」
「入れるよ。砂糖もミルクもいっぱい」
「入れねえよ。─ははは」
ずいぶんと久しぶりに聞くような気がした、西原くんの笑い声を。