ココア



この小さな部屋に、彼が溜めていた苦しい気持ちが溢れていく。


「好きなのに、すごく好きだったのに…。
過去形にしなきゃいけないのが、死ぬほど辛いくらいに。
怖かったんだ、目の前でジワジワと陽子を奪われていくのが。
─だから、逃げ出した。


いろんな後悔とか苦しみとか、、、

疲れたんだ。
もう、疲れたんだよ」


まくし立てるように一気に喋りきると、すっかり冷めてしまったココアを口にした。


「……甘っ…。倉野、これ甘いよ」

「砂糖、いっぱい入れたんだもん」

「ココアには砂糖入れないだろ」

「入れるよ。砂糖もミルクもいっぱい」

「入れねえよ。─ははは」

ずいぶんと久しぶりに聞くような気がした、西原くんの笑い声を。





< 181 / 247 >

この作品をシェア

pagetop