ココア



「…まだ、自信ない。会うのはまだ自信ないよ…」


お父さんの崩れ落ちた背中が、泣き叫ぶ声が、未だ焼き付いて離れない。



「倉野が後悔しているなら、それは伝えた方がいい。いつか伝えられなくなっちゃうんだからさ」


西原くんの声に、少し陰りが帯びる。


彼は、ずっと陽子さんの“死”を抱き続けているのだと思う。


─いつか、伝えられなくなる日が来る─


誰にでも必ず





「怖…い。また、同じことを繰り返しちゃいそうで」



「倉野には後悔してほしくないんだよ」


それが西原くんの心からの気持ちだって分かるから、胸の奥がジンと痛む。



「─そう…だね。謝って、くる」


そう言葉にしてみたら、それは現実味がますます帯びて、緊張してしまう。


「俺も付いてってやるよ」


「ううん、大丈夫。一人で、行ける」



私も私の足で、前に進まなくちゃ。


心から心配してくれる人が居るから、私はもっと強くなれるはずだから。



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