ココア
家の前まで来ると、大きく深呼吸をした。
冷たい空気が肺いっぱいに広がる気がした。
ドアの前に立つ。
21年間育った家。
それなのに、今の私には、この家のドアはあまりにも重すぎた。
「ただいま…」
自分の声の弱々しさにビックリする。
いつもなら、お母さんの声が聞こえてくるはず。
でも、今日はシンとした空気だけが私を迎えた。
「お母さん?」
キッチンにはいない。
リビングへ向かう途中で、お父さんと鉢合わせた。
予想してなかった訳ではないけれど、思わず体が固まる。
お父さんの体は不安定に揺れながら、手すりに必死に掴まっていた。
「…つえ、は?」
「リハビリしてるんだ」
ぶっきらぼうにそう言うと、お父さんはヨロヨロとリビングのソファに腰を下ろした。