ココア
「母さんならいないぞ。買い物だ」
「そう…」
私はまだ、リビングの入り口に立ち尽くしている。
足も口も、うまく動かない。
「座らないのか?」
「………。」
「母さんがいないと、俺と話しも出来ないのか?」
「座る!座るよ。だから…」
また、感情が爆発してしまわないように、息を一度飲み込む。
「だから、怒鳴らないで。お父さん」
向かい合って座っているのに、お父さんは私の方は見ずにテレビに目を向けている。
【後悔してほしくない】
西原くんの言葉が、頭に響く。
「お父さん…」
「もう、家には帰ってこないんじゃなかったのか?」
お父さんの尖った言葉が、私に突き刺さる。
それはきっと─
私が逃げ続けてきた、当然の報いなのかもしれない。