ココア
俯いていて、表情が良く見えない。
「今日はもう帰れ。帰ってくれ」
表情は見えないけれど、私には泣いてるように見えた。
帰れ、という言葉だけど、そこには尖った感情は見当たらない。
寧ろ、悲しい声色をしていた。
そっと立ち上がると、俯いたままのお父さんに、もう一度“ごめんなさい”と呟いて家を出た。
入る時にあんなに重かったドアはあっけなく開き、私は苦笑いをする。
トボトボと駅までの道を歩く。
塾の帰りや、遅くなった日はお父さんが迎えに来てくれたっけ。
お父さんの車で、お父さんが迎えに来て。
歩いて帰る時は手を繋いで歩いたっけ。
あれは、何歳の時だったのだろう。
そんな、取り留めのない思い出を掬いながら駅まで歩いた。
駅前に、彼が立っていた。
西原くんが私を待っていてくれた。