ココア



待ち合わせをしていたわけではなかった。

【お父さんに謝ってきます】

そう、メールで告げただけだった。


それだけなのに西原くんは、こうして、この駅で待っていてくれたのだ。



「おう!」

いつものように片手を挙げ、その顔を優しく崩す。


「来て、くれたんだ」

「俺がついていてやる、て言ったろ?義理堅い男だよな、俺って」


「ありがとう」


彼は今日はバイクではなく電車で来ていたようで、私と同じ上りのホームのベンチに座る。


駅までの道で掬った思い出が、目の裏のスクリーンに次々と映し出される。


ベンチに座り、ただその暖かい映像を眺め続けていた。


その間、上りのホームには電車が来ては、また発車していく。

反対の下りの電車も、何本も通り過ぎていく。

たくさんの人の波が駅に押し出され、そして、電車で流されていった。


そんな時間を、彼は何も言わず、ただ隣に座っていてくれる。

私の、隣に。



< 219 / 247 >

この作品をシェア

pagetop