ココア
待ち合わせをしていたわけではなかった。
【お父さんに謝ってきます】
そう、メールで告げただけだった。
それだけなのに西原くんは、こうして、この駅で待っていてくれたのだ。
「おう!」
いつものように片手を挙げ、その顔を優しく崩す。
「来て、くれたんだ」
「俺がついていてやる、て言ったろ?義理堅い男だよな、俺って」
「ありがとう」
彼は今日はバイクではなく電車で来ていたようで、私と同じ上りのホームのベンチに座る。
駅までの道で掬った思い出が、目の裏のスクリーンに次々と映し出される。
ベンチに座り、ただその暖かい映像を眺め続けていた。
その間、上りのホームには電車が来ては、また発車していく。
反対の下りの電車も、何本も通り過ぎていく。
たくさんの人の波が駅に押し出され、そして、電車で流されていった。
そんな時間を、彼は何も言わず、ただ隣に座っていてくれる。
私の、隣に。