ココア
冬の陽は、あっという間にどんどん傾き、今では空にオレンジ色の欠片を残すだけ。
急に寒さを覚え、目を開ける。
隣にいる西原くん。
寒そうに首をすくめている。
「謝れた、よ」
「うん」
「ちゃんと伝えられなかったかもしれないけど」
「うん」
「ちゃんと伝わってないかもしれないけど」
「うん」
「なるべく感情的にならないように、言えたと思う」
「うん」
「帰れ、て言われちゃったけどね」
「…。」
「今日は帰ってくれ、だって」
「…。」
「私もう…」
“もう無理”そう言おうとした私の声を、西原くんが遮った。
「出てけ、じゃなくて、帰れ」
「え?」
「親父さんは、出ていけ!て怒鳴った訳じゃなくて、帰れ、て言ったんだよな」
「…うん」
お父さんの険しく、悲しく歪んだ顔を思い出す。