ココア
「“出ていけ”と“帰れ”は、違うんじゃないかな。今回は感情的に怒鳴られたりはしてないんだろ?」
「うん」
「それが、今の親父さんの精一杯なのかもしれない」
「そう…なのかな」
「待ってやれよ。大丈夫、時間はかかるかもしれないけど。倉野はちゃんと愛されてるよ」
「…ありがとう」
微かに残っていた夕陽の欠片も、濃紺の薄闇に溶けていってしまった。
どれくらい、ここに座っていたんだろう。
二人で。
西原くんとの沈黙は、こんなにも安心出来て心地良い。
私も彼も、夕陽と一緒にこの薄闇に溶けてしまえればいいのに─。
そう、願うことは彼には伝えられないけれど。
冬晴れが続いていた。
冷たく乾燥した空気は、嫌いじゃない。
気持ちも体も、何か、キリッとなれるような気がするから。